top of page

教育社会学⑩ルーマン『社会の教育システム』(2002、邦訳2004)

更新日:2022年9月23日

こんにちは!Freewillトータルエデュケーションの井口です!


今回はニクラス・ルーマン『社会の教育システム』をとりあげます。『教育の社会学』(有斐閣アルマ、2010年)の参考文献からとりあげました。


【概要】

 

ニクラス・ルーマンはドイツを代表する社会学者で、

20世紀の社会学者の中でも5本の指に入るほど大きな影響力を持ちました。


特に、彼の「社会システム論」社会全体を統一の見方で俯瞰できる、

とても珍しい理論です。


社会システム論は、生命システムからヒントを得ており、

社会全体を一つの細胞のごとく捉え

その動きを分析できる、切れ味鋭い理論です。


ルーマンはその理論を武器に、政治・宗教・経済といった、

社会の各部分にメスを入れていく著作を次々と刊行するのですが、

本書はそのメスを教育にいれて書かれたものです。


1. 教育システムの位置付け

 

ルーマンの著作は非常に難解な専門用語に溢れ、

(「作動的閉鎖性」「構造連結」「構造呼応」「媒体/形式」「内部転写」・・・)

とても読みにくかったです。


今回の記事では極力そう言った用語を省きます。


ただ、壮大な社会システム論を教育に適用した本書を理解するためには、

教育システムの前に「社会システム」とは何なのかを考えなければいけません。



①世界の中の社会システム


ルーマンはこの世界を捉えるときに、


①機械

②生命

③意識

④コミュニケーション


の四つに分けて分析をします。

そして、④コミュニケーションのことを「社会システム」と呼びます。


ニクラス・ルーマン (1927年12月8日 - 1998年11月6日)


②各システムの独立性

ルーマンによれば①~④のシステムは、お互いが混ざり合わず、各々独立しています。


・・・?良くわかりません


例えば、我々は脳内のシナプスの動きを意識できません。それを上の観点から言い換えると、人間の意識(意識システム)が脳内活動という自分の生命活動(生命システム)の動きを完全には把握してないということを示しています。意識システムと生命システムはお互いに関係しながらも、独立しているということです。


また別の例をだすと、我々は他人とコミュニケーションを取る時、

相手が何を考えているのかは完全にはわかりません。

相手の意識(意識システム)が完全にはわからずとも、

コミュニケーション(社会システム)は成立します。意識システムと社会システムはお互いに関係しながらも、独立しています。


③システムと複雑性の縮減

またルーマンは次に、各システム①~④の内部は極めて複雑であることを確認します。


例えば、意識状態は複雑ですし、身体の動きである生命状態も複雑ですね。


各システムはお互いに関わる時には、その複雑性をある程度無視して関わります。

これは「複雑性の縮減」と呼びます。


これもまた、なんのことだか、という感じです。


そもそもルーマンのシステムのアイデアは②生命システムからきていますが、

「複雑性の縮減」は生命システムであればわかりやすい話です。


例えば、さまざまな波長がある電磁波のうち、

人間の視覚は可視光線しかキャッチしないようになっています。

これは生命システムがその外部の複雑性(電磁波の多様な波長)をある程度無視していることを指します。


そしてルーマンはこのアイデアを他のシステムにも応用しますので、

当然社会システム(コミュニケーション)でもこのような複雑性の縮減が起きているということになります。


例えば、ホームセンターを経営をしていて、目の前に消費者がいたとき、「この消費者はDIYをするためにこの商品を買うのではなく、誰かに憎しみをいだき、自作銃を作るつもりでこの商品を買うのでは」と気にしすぎていたら、商売はできません。

買い手がどんな人であれば、お金を払ってくれれば取引を成立させなければ商売できません。これは、極めて複雑な相手の意識状態(③意識システム)や(感情も含む)生命状態(②生命システム)を度外視し、売買取引という経済的なコミュニケーション(④社会システム)が成立している例です。


このように①~④の各システムは、お互いに関わり合いながらも、お互いの複雑性を極めて単純化して、自らの作動を続けていきます。


④社会システムの種類

さて、上では経済の例を挙げましたが、

社会システム=コミュニケーションには経済以外にも種類があります。


ルーマンが挙げる社会システムは

・政治システム

・経済システム

・宗教システム

・学問システム

・教育システム

といったものです。


ここでやっと教育システムがでてきました。


社会システムがコミュニケーションのことだったことを踏まえると、

その一部である「教育システム」というのは教育制度のことを指しているのではなく、

教育にまつわるコミュニケーションを指しているということですね。


当然教育システムも、社会システムの一部ですので、

上に見たように、他のシステムとは独立しており、